チーム設計師の考え事

日々、考えていることをつらつらと

学習原則Six Trumpsを活用するために研修ハンドブックシリーズを読破したのでまとめる

これまで作ってきた研修を全部見直さないと……そんな大きな衝撃を受けた。ある時、仕事で関わった方から教えてもらった、Six Trumps(日本語だと6つの切り札?)を見たのがその発端だ。

Six Trumpsとは、脳科学に基づき、学習の定着率を向上させる6つの原則を示したもの。

1. 動くことは座ることに勝る。
2. 話すことは聞くことに勝る。
3. イメージは言葉に勝る。
4. 書くことは読むことに勝る。
5. 短い方が長いより良い。
6. 違うことは同じに勝る。

これらの原則を活用することにより、学習を促進することができる。
なお、もう少し詳しい内容は、下記資料に書かれている。

www.slideshare.net

このSix Trumpsをもっと詳しく知りたいなと思い調べてみたところ、日本語では情報がほとんど出てこない。英語で調べていくのも良いのだけれど、日本語で解説されていればそれに越したことはない。

 

そんなことを考えていたとき、ふと本棚に積まれている本を思い出した。『オンライン研修ハンドブック』だ。ぱらぱらとページをめくると、なんとなくSix Trumpsに近しい内容が書いてあるようにも思える。

まさかと思い、最後のページの参考文献を見ると、Six Trumpsの参考文献と同じものが書かれているではないか!

ということで、この研修ハンドブックシリーズ(正式名称がないので、ぼくが勝手につけたシリーズ名。以下シリーズ)を読むことにした。全5冊。

 

以下に、Six Trumpsの原則に沿って、シリーズに書かれた内容を紹介する。また、原則以外に書いてあること、シリーズそれぞれの本の特徴も記す。

動くことは座ることに勝る

シリーズでよく出てくるトピックのひとつが、「脳の活性化」だ。脳を活性化するためには、体を動かすこと、脳を刺激すること、食べ物や飲み物の活用、場所を変えることを研修に組み込むべし。

例えば、立ち話ができるようにホワイトボードの前に集まるように仕向ける、おやつを自分で取ってくるような配置にするということが考えられる。

オンライン研修の場合は、「窓の外を見てきて、何が見えたかをチャットに報告する」というアクティビティが考えられる。

これらを、シリーズでは脳を活性化させるアクティビティ「エナジャイザー」と呼んでいる。

話すことは聞くことに勝る、書くことは読むことに勝る

もうひとつ、シリーズによくでるトピックがある。「参加者の主体性を引き出す」だ。

クイズに答えてもらう、ペアやグループで重要な点や仕事上で実践するにはどうするか話し合ってもらう、自分たちで研修のルールを決めるといった複数人から全員参加のものもそうだし、個人で課題に取り組む、今までの内容を自分の言葉でまとめるという、ひとりで行うものも含まれる。

こうしたアクティビティの具体例が、シリーズを通してたくさん紹介されている。すぐに取り入れられるものばかりなので、かなり参考になった。

 

また、参加者が自分ごととして研修にのぞむためには、EATをデザインすることも効果的だ。EATとは、Experience(経験)、Awareness(気づき)、Theory(理論)の頭文字をとったものである。

「研修は理論や理屈から入る」という思い込みをしている人は多い。ぼくもそうだった。

そうではなく、経験(過去の経験、あるいはその場でのワーク)から気づきを得て、その後に理論を添える。そうすることにより、参加者の受け身の姿勢や否定的な感情が出るのを防ぐことができる。

イメージは言葉に勝る

研修をデザインするとき、大事な考え方が3つ挙げられている。上で取りあげたEAT、90/20/8(オンラインの場合は90/20/4)の法則、KSAだ。この原則には、KSAが関連する。あとの1つは後ほど紹介する。

KSAとは、Knowledge(知識)、Skill(スキル)、Attitude(態度、姿勢)の頭文字を取ったもの。何かを学ぶうえでは、必ずこの3つの要素が必要となる。研修の目的を達成するために必要なKとSとAは何かを洗い出し、研修デザインをしていく。

その際、A(態度、姿勢)に関しては、言葉を伝えるだけでは不十分だ。「○○を心がけましょう」「○○に気をつけましょう」「○○をしましょう」、それだけで実際に動ける人がどれくらいいるだろう。

もちろん、必要なK(知識)とS(スキル)があったうえではあるが、Aに対しては感情に訴えかける必要がある。ここでイメージの力を使っていく。

例えば、目指す姿のロールモデルとなる人にインタビューをする、映像でストーリーを見せる、肯定派と否定派に分かれてディベートするという方法がある。

 

イメージの力をより理解するのによい事例が、シリーズ内で紹介されている。

筆者の友人が、3歳の娘に歯磨きを教えたそうだ。歯磨きとは虫歯を防ぐもので、こんな感じでするんだよと。しかし、娘は歯磨きが好きではなく、毎晩苦労して磨かせていた。あるとき、「感情に訴えかけていないことが問題なのだ」と気づいた友人は、娘に「ひどい虫歯の写真」をみせた。その日から、娘は毎日、率先して歯磨きをするようになったそうだ。

短い方が長いより良い

これは他の原則よりわかりやすい。もし、学校の授業に休み時間が無かったら、学べるものも学べなくなるだろう。

ここでは、90/20/8の法則が参考になる。

 

人間の集中力は90分までしかキープできない。なので、90分ごとに休憩を取るようにする。これが90。

また、大人が記憶を保持しながら話を聞くことができるのは20分だ。なので、20分を1単位として研修をデザインする必要がある。これが20。

さらに、人間の脳は受け身な状態が10分以上続くと興味を失い始めてしまう。興味を持ち続けてもらうため、8分が経過したら参加者に何かしらの参画をしてもらうように促す必要がある。これが8。

以上を合わせて、90/20/8の法則となる。ちなみに、オンライン研修は気が散りやすいので、参画を4分ごとに行う、90/20/4の法則を用いる。

 

参画の部分は何をするのかというと、上述した、「参加者の主体性を引き出す」ことをしていく。

また、記憶を保てるのが20分であるため、そのタイミングでの参画ではリビジット(ふりかえり)をしてもらう必要がある。大事な点を整理する、そこまでの内容に関するクイズに答える、考えたことをメモしてもらうなどをするとよい。

違うことは同じに勝る

シリーズ内で紹介されている各アクティビティをまんべんなく使いこなせるのが理想だが、得意なものや、1度試して効果があったものを使い続けてしまいがちだ。

参画を促すタイミングでクイズを出したところ、かなり反応が良い。かといって、毎回クイズを出し続けてしまうと、飽きがきて参加者が受け身になっていく。

興味を持ち続けてもらうためには、いろいろな方法でのアプローチが必要だ。同じことの繰り返しにならないように研修をデザインしよう。

原則以外に書いてあること

まず、研修講師のマインド。これはかなり参考になる。研修をデザインする際や当日に思い出したい。

  • まず、自分が楽しむ
  • 教えることは、説明するや伝えるではなく、参加者が研修で学んだことを活す手助けをすること
  • It’s not about you, it’s about them(自分ではなく、参加者にとってどうかを考える)

あとは、研修の前後の話も書かれている。

研修をするということは、何らかのニーズがあるということ。そもそも、そのニーズは研修で解決できるのか。研修を受ける人は、研修の内容を現場で実践する意志があるのか、権限があるのか。

まず、そこから考えなくてはならない。

 

また、研修後のリマインドやアンケートを取る方法、効果測定も少し触れられている。

余談だが、この部分を詳しく知りたい場合は、『「研修評価」の教科書』がおすすめだ。

シリーズそれぞれの本の特徴

最後に、シリーズのそれぞれに対し特徴を紹介する。なお、順番は本の発売日が古いものからだ。

講師・インストラクターハンドブック

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Amazon

このシリーズの基本になる本。ひとまず、これを読めばOK。

そして、読んだ上で、自分に足りない部分を後のシリーズで補うのが良いだろう。なお、重複した内容がそれなりの割合で入っていることはご承知おきを。

研修デザインハンドブック

研修デザインハンドブック

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研修を作り上げるのに自信がない方は、こちらを読むといい。研修デザインについて、上の本よりも細かい内容が書かれている。

ぼくもそうだったように、すでに研修を何個か作っている場合はあまり参考にならないかもしれない。

研修アクティビティハンドブック

研修アクティビティハンドブック

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研修のオープニング、クロージング、リビジット、エナジャイザー、その他のアクティビティが各10個ずつ紹介されている。

「違うことは同じに勝る」が実現できなそうな場合に参考にするとよいだろう。

研修ファシリテーションハンドブック

研修ファシリテーションハンドブック

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その名の通り、研修をファシリテーション目線で見た本。研修のファシリテーションと言われてピンとこなければ読むと発見があると思う。

ぼくはある程度ファシリテーションの勉強をしているので、新たな学びは部分的にしかなかったが、難しい参加者への対処方法が書かれた章が参考になった。

オンライン研修ハンドブック

オンライン研修ハンドブック

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最新版なだけあって、ここまでの4冊の内容が網羅的に書かれている印象。それに加えて、オンラインならではの話がある。

参加者の反応を見ると研修がしやすいのでカメラのオンを促すのは講師都合だ!と書かれており、衝撃を受けた。たしかにそうかも。

おわりに

最近は、このSix Trumpsと、シリーズに書いてあることを参考に研修を行っている。体感としては、前よりも受講生が参加しているような気がするが、そもそも研修全体を見直さないとなと思っているところだ。

また、この考え方は研修以外にも使える。例えば、会議や社内のレクリエーション、チームのふりかえりにも応用できるかもしれない。

いろいろ模索しながら、「教える」レベルを上げて現場に貢献していきたい。